遺産相続の後から借金(負債)が判明したらどうすれば良い?

文責:所長 弁護士 安藤伸介

最終更新日:2025年01月10日

 遺産相続では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も相続の対象に含まれます。

 そのため、被相続人に借金があった場合には、相続人は借金も相続することになります。

 借金などマイナスの財産を相続したくない場合には、「相続放棄」という手段があります。

 しかし、相続放棄には期限があります。それまで知らなかった借金の存在を遺産分割後に知ったような場合には、相続放棄の期限が経過してしまっているケースもあります。このような時はどうすれば良いのでしょうか。

 また、相続放棄は相続財産の一切を相続しないとする方法ですが、借金だけを放棄できる方法はあるのでしょうか?

 今回は、相続してから分かった被相続人の借金の対処法について解説します。

1 被相続人に借金がある場合の対処法

 まずは、被相続人の遺産に借金があった場合の一般的な対処法についてご説明します。

 借金を相続したくない場合には、以下の「相続放棄」と「限定承認」という方法が考えられます。

 

⑴ 相続放棄

 相続放棄をした相続人は「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われることになり(民法939条)、プラスの財産とマイナスの財産を含めたすべての権利義務を一切引き継ぐことができません。

 つまり、相続放棄をすると、借金の相続を回避することができる一方で、預貯金や不動産なども一切相続することができなくなってしまうのです。

 そのため、借金のために相続放棄を選択する際は、十分に相続財産調査を行って、被相続人のプラスの財産がマイナスの財産を下回っていることが明らかになってから行うことが必要です。

 これを怠って安易に相続放棄をすると、大きな損をしてしまう可能性があります。

 

⑵ 限定承認

 限定承認とは、相続人が相続したプラスの財産の範囲内で被相続人の借金などを弁済するという相続方法のことをいいます(民法922条)。

 限定承認をすることによって、相続人はプラスの財産とマイナスの財産のすべてを相続することになりますが、相続したプラスの財産の範囲内に限って責任を負うことになります。

 したがって、限定承認すれば後日借金の存在が明らかになったとしても、自分が相続したプラスの財産を売却して返済に充てれば足り、借金全額を返済する責任を負うことはありません。

 手元に残したい遺産がある場合や、被相続人の事業を承継したい場合などには、限定承認が有効でしょう。

 ただし、限定承認は相続放棄とは異なり、相続人単独で限定承認の手続きを行うことはできず、相続人全員の同意が必要になります。手続きが煩雑な点がデメリットと言えるでしょう。

2 後から借金があることが判明した場合の注意点

 相続開始時点で借金の存在がわかっていれば、上記のような相続放棄や限定承認によって対処することができます。

 しかし、遺産分割が終わり遺産を相続をした後に、それまで知らなかった借金が発覚した場合にはどうすれば良いのでしょうか。

 

⑴ 「法定単純承認事由」に該当する行為後は相続放棄・限定承認できない

 相続放棄または限定承認をするためには、「法定単純承認事由」に該当する行為をしていないことが必要となります。

 法定単純承認事由とは以下の事由です(民法921条)。

 ・相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき

 ・相続人が熟慮期間中に限定承認または相続放棄をしなかったとき

 ・相続人が限定承認または相続放棄をした場合であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき

 遺産分割協議は、通常、プラスの財産とマイナスの財産の全容を把握したうえで、その承継について共同相続人間で行われるものであるため、遺産分割協議が成立すればそれは「相続財産の処分」として評価されます。

 したがって、遺産分割協議が成立した後は、原則として相続放棄や限定承認はできないことになります。

 

 【例外的に相続放棄ができるケース】

 過去の裁判例の中には、遺産分割協議を行っていたとしても、遺産分割協議自体が錯誤によって無効になる場合(大阪高裁平成10年2月9日決定)や、自らは被相続人の遺産を全く承継することがないと信じて、公正証書遺言から逸脱していた不動産に関してのみ遺産分割協議書を作成したような場合(東京高裁平成12年12月7日決定)には、例外的に「処分」に該当しないと判断したものもあります。

 そのため、遺産分割協議をしたとしても上記のような特別な事情が認められれば、例外的に相続放棄や限定承認を行うことができるケースがあります。

 

⑵ 「熟慮期間」経過後は相続放棄・限定承認できない

 また、相続放棄や限定承認をする場合には、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内にしなければなりません(民法915条1項)。

 相続をするかどうかをじっくりと考えるための期間であることから、この期間のことを「熟慮期間」といいます。

 遺産分割後に借金の存在が判明した場合には、通常、3ヶ月の熟慮期間経過後であることが多いため、やはり原則として相続放棄や限定承認を行うことはできないことになります。

 

 【例外的に熟慮期間の起算点を遅らせることができる場合】

 3ヶ月の期間経過後に相続放棄や限定承認ができるかどうかは、熟慮期間の起算点である「自己のために相続の開始があったことを知った時」の解釈が問題となります。

 最高裁判所は、熟慮期間の起算点について、「相続放棄のための熟慮期間は、相続人が相続すべき積極及び消極財産の全部又は一部の存在を認識したとき又は通常これを認識しうべきときから起算すべき」としています(最高裁平成13年10月30日決定)。

 また、3ヶ月の期間が経過していたとしても、例外的に、相続人が相続の対象となるプラスとマイナスの両方の財産が存在していないと誤信していたために相続放棄の手続きをとる必要がないと考えて熟慮期間を徒過した場合には、その誤信について過失がないことを条件に、起算日を遺産の認識時または認識可能時に繰り下げることができるとしています(最高裁昭和59年4月27日判決)。しかし、遺産分割後に借金の存在が判明したという事案では遺産分割によってプラスの財産の存在は認識しています。したがって、相続放棄を行うことは難しいといえるでしょう。

 

⑶ 遺産内容について錯誤がある場合は相続放棄・限定承認できる

 民法が相続放棄の申述について3ヶ月の熟慮期間を設けた趣旨は、当該期間の中で被相続人の遺産の構成や内容について相続人らに調査を尽くさせることにあります(民法915条2項)。

 このような趣旨に照らせば、民法は相続人に対して、相続財産の調査を行ったうえで、相続放棄をするかどうかを判断するよう求めているものといえます。

 一方、相続人が熟慮期間内に調査を尽くしたにもかかわらず、債権者からの誤った回答などによって相続財産(負債)が存在しないものと信じ、相続放棄をすることのないまま熟慮期間が経過してしまった場合には、相続人が遺産の構成について錯誤に陥っているといえます。

 そのため相続人は、それ以上の債務の調査が事実上不可能になっていますので、熟慮期間の趣旨に照らして、相続人が錯誤に陥っていたことを認識した時点から熟慮期間が開始することになります(高松高裁平成20年3月5日決定)。

 このような裁判例を前提とすると、被相続人が生前利用していた金融機関に問い合わせたところ「負債はない」との誤った回答がなされた場合には、遺産分割協議を経た後であっても例外的に相続放棄や限定承認ができるケースがあると解されます。

3 相続放棄・限定承認ができない場合の対処法

 上記のように相続放棄や限定承認が認められなかった場合は、被相続人から相続した借金にどのように対処すればよいのでしょうか。

 

⑴ 借金の消滅時効を援用する

 相続した借金に消滅時効が完成していれば、援用することで返済義務を免れることができます。

 遺産分割後に借金が発覚するということは、それまで請求書や督促状が自宅に届かなかったということで、そもそも当該借金に長期間取引がなかった可能性があります。

 クレジットやサラ金業者の借金の時効期間は5年ですので、その間取引がなかった場合には時効が完成している可能性があります。

 しかし、借金の時効は何もせずとも勝手に成立するものではありません。

 時効で借金を消滅するためには、「援用」という手続きで相手方に対して時効の完成を主張しなければならないのです。

 債権者からの督促に応じて返済してしまえば、時効は数え直しになります。

 うっかり支払ってしまう前に、弁護士に相談して時効の可能性を調査してみるとよいでしょう。

 

⑵ 任意整理

 相続した借金が時効になっていなければ、相続人には返済義務があります。

 借金の金額が少なく、相続した財産や相続人自身の財産から返済することができれば特に問題はありません。

 しかし、返済が困難な金額であれば、弁護士に依頼して債権者と交渉してもらい任意整理を行うことも一つの方法です。

 任意整理では、債権者に返済方法の変更や、将来利息のカットなどに応じてもらえる可能性があります。交渉が成立すれば、返済の負担を軽減することができます。

 

⑶ 自己破産、個人再生

 任意整理も難しいという場合には、自己破産や個人再生といった法的整理を検討しなければなりません。

 法的整理をすることによって、裁判所が借金の減免を法的に認めてくれますので、相続した借金に関する問題を抜本的に解決することができます。

 しかし、自己破産や個人再生にはデメリットもあります。どの方法が最適かは置かれている状況によって異なりますので、弁護士と相談しながら決めていくと良いでしょう。

4 相続してからわかった借金についてのよくある質問(FAQ)

被相続人の借金はどうやって調べればいい?

 被相続人の借金を調べるには、大まかに次の方法が考えられます。

 ・被相続人のご自宅で契約書や明細書・督促状などを探す

 ・登記情報を確認する

 ・信用情報機関へ情報開示請求を行う

 

 被相続人のご自宅でクレジットカードの明細書や借金の契約書、催告書・督促状などがないかを調べます。

 また被相続人が所有していた不動産の登記情報を調べて抵当権が設定されいてれば、債権者に現在の債務の状況を確認します。

 銀行やクレジット会社、消費者金融といった金融機関からの借金を調べるなら、信用情報機関に情報開示請求するのがいいでしょう。

 信用情報機関には、全国銀行協会、CIC、JICCの3つがありますが、いずれも法定相続人からの情報開示請求は可能です。

 相続財産調査は弁護士に依頼することもでき、被相続人がどの金融機関を利用していたかがわからない場合には、照会をかけてもらうこともできます。

 

相続放棄した後の借金は誰が払う?

 相続人が1人相続放棄をしても、他に相続人が残っていれば相続分に応じて借金を負担します。

 相続人全員が相続放棄をしても、次順位の相続人がいる場合には、その相続人に借金も引き継がれることになります。

 最終的に相続放棄により相続人が誰もいなくなれば、利害関係人・検察の請求により相続財産清算人が選任され、相続財産清算人から相続財産の範囲内で債権者に弁済が行われます。

5 被相続人の借金が見つかったら早めに相談を

 家族であっても、被相続人の財産をすべて把握しているわけではありません。

 相続が開始し、遺産分割協議を終えた後に初めて借金の存在が判明することも珍しくありません。

 相続財産調査を怠ると思わぬ不利益が生じることもありますので、相続が開始した場合には速やかに弁護士に相談して、相続財産調査を十分に行っておくことが大切です。

 また、「相続後の借金について相続放棄や限定承認ができずに相続したものの、とても払えない」という状態での債務整理手続きも、弁護士ならば適切に対処が可能です。

 相続や借金に関するお悩みは、当法人の弁護士にどうぞお気軽にご相談ください。

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